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Brave GNU World - 第30号
Copyright © 2001 Georg C. F. Greve <greve@gnu.org>
日本語訳: IIDA Yosiaki <iida@brave-gnu-world.org>
許可声明は以下のとおり

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Brave GNU Worldの新しい号へようこそ。 今月号では、 やや実験的な機能のある多様で広範な話題をとりあげます。 最後の記事は、 Bernhard Reiterとの共作です。 まず最初に、 技術面からいきましょう。

TINY

極小のGNU/LinuxディストリビューションがTINY [5] プロジェクトの目標です。 これを始めたのはOdile Bénassyで、 チームには、 Jean-François Martinez、 Mathieu Roy、 Roger Dingledineらもいます。 TINYというのは、 Jean-François Martinezの主プロジェクトである "Independence Linux"(「独立Linux」) のもじりで"'Tis Independence N'Yet" (「いまだ独立にあらず」) からきた略語なのです。

プロジェクトはOdileの親類の個人的経験にさかのぼります。 この女性は、 Free Softwareをつうじて、 情報時代において発展しつつある国々に参加の機会を与えようという考え方と、 GNU/Linuxを、 自分の学校に導入しようとしたのです。 この達成のため、 ハードウェア要件を低くおさえることが主な目標になりました。 現在の極小要件は、 ハードディスクなしの386 DX 33です。

もちろん、 発展しつつある国々にはほかの問題もたくさんあり、 それを考えに入れないことにしても、 技術基盤の欠けていることが、 問題になります。 インターネット接続がないとか、 フロッピー・ディスクが気候でダメになる、 などというだけではなく、 往々にして電気さえない人々さえいるのです。

しかし、 遠隔地に電線や電話線をひく援助制度があります。 TINYをニーズに合わせるため、 Odileは、 この制度を自発的に援助している科学者や物理学者と話をしました。

TINYはSlackware 4.0に基づき、 glibc2とカーネル2.2を使っています。 配布の許諾は、 もちろんGNU General Public Licenseです。 他の極小ディストリビューションにくらべ、 TINYは完全に日常的に使える状態になっています。 そのため、 単に極小ディストリビューションをさがしている人にも、 TINYは興味深いかもしれません。

6ヵ国語になっているホーム・ページ [5] に書いてあるように、 ディストリビューションはちゃんとインストールできます。 ですが、 多少は冗長な文献や、 きちんと管理された多くのアプリケーションの一覧が、 望まれているところです。

時間不足のため、 プロジェクトは現在、 止まっています。 発展しつつある国々からのフィードバックも不足しています。 そのため現在のチームは、 援助や支援のできる人たちのグループへの引継ぎを希望しています。

セルフ・サービスしようとする人たちへの援助に、 もし興味がおありなら、 TINYはいい基盤をあたえるかもしません。 しかし、 もし単に極小ディストリビューションを捜しているだけなら、 TINYは一見の価値ありというべきです。

GNU TeXmacs

GNU TeXmacs [6] プロジェクトは、 Free SoftwareのWYSIWYG (見たものは得たもの) ふうの科学エディターに取り組んでいます。 名前から察しのつくように、 GNU TeXmacsの作者、 Joris van der Hoevenは、 GNU EMACSとLaTeXに触発されました。

一見同様に思うかもしれないLyxプロジェクト [7] をのぞけば、 これはLaTeXのフロント・エンドではなく独立のプロジェクトです。 LaTeXからの触発は、 現在LaTeXが疑いなく最高の解をあたえる数式の植字能力、 組版品質という見地からのものです。 またGNU TeXmacsはTeXのフォントを使い、 TeX/LaTeX文書用の入出力フィルターがあります。

EMACSからの触発は大部分、 拡張能力という見地からのものです。 GNU TeXmacsはC++で書いてあり、 Guile/Schemeを拡張言語にしています。 ユーザー・インターフェースとエディター自身は、 Guile言語でカスタム化、 拡張ができます。

GNU TeXmacsは、 Maxima、 Pari GP、 GTybalt、 Yacas、 Macaulay 2、 Mupad、 Reduceのインターフェースで直に科学計算をさせることができます。 Scilabのインターフェースはすぐ使えるはずで、 さらなるインターフェースの追加は相対的に簡単です。

完全なXMLエディターへとすすむ拡張計画と組めば、 GNU TeXmacsは、 インターネット上で対話的な数学文献のようなおもしろい能力を提供します。

プロ級の組版品質、 TeXフォントのアンチ・エーリアス、 構造つき文書能力、 そして、 スタイルファイルや動的マクロという潜在能力のおかげで、 GNU TeXmacsは特に科学分野の利用者に大きな可能性をあたえてくれます。

Joris van der Hoeven、 Andrey Grozin、 Thomas Rohwerらが約4年の間取り組んだ今、 プロジェクトの現状は、 1.0版の直前です。 現在の問題は、 改良の余地ある、 実装の不完全な機能とLaTeXフィルターです。 文書もいまだに簡潔すぎます。

直近の計画は、 前述の問題をかたづけて、 1.0版をリリースすることです。 その後、 スプレッドシートのサポートと、 XML/XHTMLの拡張が、 次の段階です。 やや先取りの計画としては、 非Unixプラットホームへの移植と、 技術図面の分野です。

文書、 翻訳、 フィルターの作成、 他のプラットホームへの移植、 GNU TeXmacsをひろく使われ、 有名にするためのGNOMEサポートなど、 どんなかたちであれ、 手助けは歓迎です。

CD-ROM Control

小さなプロジェクトは少し見過ごされてきましたが、 そろそろこのへんで記事にするときがきたようです。

Paul MillarによるCD-ROM Control [8] は、 CD-ROMを制御する小さなアプレットです。 Tcl/Tkと一部はCで、 書かれました。 状態表示をのぞけば、 CD-ROMのマウント、 アンマウント、 排出が、 マウスのクリックで簡単にできます。 GUIは、 TkにもGTK+にもできます。

CD-ROM Controlの独自機能は自動スタートで、 これにより、 CDを入れたときに、 お好みのグラフィカル・ファイル・マネージャ、 ウェブ・ブラウザ、 オーディオ・アプリケーションを立ち上げることができます。

たとえ統合デスクトップはこの機能の一部を提供するとしても、 すべてのウインドー・マネージャにあてはまるわけではないので、 このプロジェクトは一部の人の興味をそそるかもしれません。

Saxogram

Matt DunfordのSaxogram [9] は、 たぶん今月号で一番珍しいプロジェクトです。 この名前は、 シェークスピアのハムレットでも多少こじつけられて引用されている年代記の作者である、 どちらかといえば無名なデンマークの歴史家、 Saxo Grammaticusからきています。 これは、 文学に関係したプロジェクトを思い起させます。

新しい外国語の習得を楽にするために、 文書内の語彙 (ごい) 一覧を作るのが、 Saxogramです。 Mattはラテン語とギリシア語を学んだのですが、 その前の多くの人々同様、 3語に1語は辞書をひくはめになりました。 彼がウェブでラテン語辞書 [10] を見つけたとき、 Saxogramに取り組み始めました。

Saxogramは、 文書を語に解析し、 自動的に辞書とつきあわせます。 出力は、 見つかった全部の語と、 その説明です。 Saxogramは、 活用や格変化した語をちゃんと扱えます。

頭の痛いのは、 辞書へのアクセスです。 というのもフリーなものは珍しいからです。 "Internet Dictionary Project" [11] がこれに取り組んでいますが、 辞書はまだ十分安定しているとはいえません。 また、 online-dictionary LEO [12] の助けは、 英語とドイツ語の間の翻訳という、 制限のついたものになっています。 ギリシア語にかんするかぎりでは、 Mattはひとつも見つけていませんし、 もし指摘していただければ、 大いに感謝したいところです。

プログラムはPythonで書いてあり、 GNU General Public Licenseの下でリリースされています。 主な問題は、 多数の正規表現やディスク・アクセスによる実行速度で、 アプリケーションを書き始めたときの作者の心は、 そこになかったのでした。 これの修正は、 さらなる開発の課題リストのかなり上にあります。

現在サポートされているのは、 ドイツ語、 ラテン語、 イタリア語を少しと、 そして、 作業中の言語が、 英語です。 さらなる言語の追加は、 GUIの作成と同様、 新たな開発目標です。

さらなる開発に一番重要なのは、 もっと多くの試験者や辞書ですので、 興味のある人たちは、 連絡をとるべきです。

GNU libiconv

GNU libiconv [13] は、 GNU Projectの文字集合の変換ライブラリーです。 iconv() 関数を使うプログラムは、 いろいろな文字集合の間で文書を変換できます。

背景について一言。 伝統的に文字集合は、 文字をあらわす256種の値をもちます。 アジアの言語や、 ドイツ語の「ウムラウト」のような地域専用文字、 またユーロ記号などを考えたら、 この惑星上の全部の文字をあらわすには、 256種類ではとても足りません。

それでさまざまな言語領域の人々が、 対応する地方の文字を含む別々な文字集合を開発しました。 そのため、 ある値に対応する文字が言語領域に依存し、 あいまいになってしまうので、 択一された言語領域は、 いわゆる「エンコーディング」で指定されることになります。

プログラムをちゃんと国際化するためには、 プログラムは文字集合を互いに変換できなければなりません。 これは、 どんなテキスト処理プログラムでも、 基本要件です。

Ulrich Drepperは、 すでに約2年前、 この問題の標準的な答をglibc用に解こうとしました。 しかし、 移植性の問題のため解はglibcに入れられず、 文字集合の変換ライブラリー群に分裂してしまいました。 Bruno Haibleがこれを見つけて、 libiconvにしたのです。

libiconvは、 glibc 2.2にあるような前述のiconv()関数をサポートしています。 libiconvは移植性があり、 高速で、 他から自立していますので、 glibc 2.2のないどんなシステムでもiconv()の機能をあたえることができます。

今やプログラムの作者は、 移植性を気にせずにiconvを使うことができ、 特にメールのプログラムの作者なら、 ぜひそうするべきです。 というのも多くのメール・クライアントは、 MIMEの拡張をちゃんと扱えていませんから。

glibc同様、 libiconvはGNU Lesser General Public Licenseで保護されていますので、 もし必要ならば、 独占的なプログラムでリンクすることができます。 望むらくはこれが、 あらゆる人の変換問題に役立つはずであろうことです。

またlibiconvでかなり印象的なのは、 転写 (transliteration) の機能です。 "//TRANSLIT"指定のあるとき、 対象となる文字集合にない文字は、 類似した、 単数または複数の文字で、 近似することができるのです。

Mozart/Oz

Mozart/Oz [14] というやや興味深い開発環境については、 二言三言いってみたいことがあります。 すべての面についての完全な記述はこの記事の容量を超えますので、 これがいったい何なのかが開発者にわかるよう、 若干の点の指摘だけにとどめておきます。

Mozartは1991年にヨーロッパのACCLAIMプロジェクトで始まり、 X11のような許諾の下、 共同作業で開発されてきました。 許諾は確かに最適ではありませんが、 Free Softwareだということはできます。

Mozartは、 知的な分散アプリケーション用の開発プラットホームです。 特に、 Mozartはネットワークを意識させませんので、 「分散計算」は大きな強みです。 さらにこれは、 並列プログラムから軽量スレッド (ひとつのアプリケーションあたり数千スレッドが可能です) にいたる、 複数のパラダイムを、 そしてまた、 モバイル・エージェントをも支援しています。

Oz仮想マシンは移植性が比較的あり、 ほとんど全部のUnix系やMS Windowsでも動作します。 ユーザー・インターフェースとしては、 Tcl/Tkへの高水準な統合インターフェースをもつ、 オブジェクト指向のライブラリーを提供しています。

プロジェクトは使える状態であり、 これまでの最大の問題は、 開発者が悪癖を捨て去らなければならない点です。 しかしもちろん、 いまだに作業中の部分はあります。

将来の計画には、 ツールの追加のほか、 ネットワーク透過性、 安全性、 信頼性の向上があります。

Mozart Consortiumは特に、 Windows IDE用のボランティアという形で、 援助を利用しています。 現在のIDEはGNU EMACSに基づいていますが、 これは全員の趣味を満足させてはくれません。 またMacintoshへの移植は作業中ですが、 進行はやや遅く、 手助けは歓迎です。

もしあなたがMozart/Ozの詳細に興味があるようであれば、 ホーム・ページ [14] をご一読されることをおすすめします。

Free Softwareと3D?

この記事はBernhard Reiterが考え出しずっとあたためていたものです。 長年のBrave GNU World読者であれば、 第14号 [15] のGRASS GISの記事で彼のことをご存じかもしれません。 Free SoftwareだけでFree Softwareだけに取り組む会社である、 Intevation GmbHの共同設立者として、 またFSF Europeのドイツ代表として、 彼は長い間Free Softwareに時間を割いてきました。

先週末、 本物のFree Software 3Dモデリング・ツールの検索が、 かんばしくなかったことから、 これは興味深いものです。

最後のFSF賞が、 Brian PaulのMesa 3Dグラフィックス・ライブラリーにかがやいたことからも、 特に3Dモデリングは、 とても興味深く重要な話題です。 しかしながら、 Free Softwareで全面的に開発されたモデリング・ツールは、 いまだにありません。 これにはおそらく2つの理由があります。

第一に、 Freeな3Dソフトウェアを概説したウェブ・ページが見つかりません。 関連したプロジェクトどうしでも、 お互いを知ることができるのは、 かなりまれです。

そして、 見たところ低価格にて入手可能で独占的な製品が、 効果的開発障壁となっています。 利用者は当初の価格の低さに目をくらまされ、 この一歩で将来、 ソフトウェアが保守できなくなることに気付きません。

Bernhardのいうには 「これは、 ソフトウェアの自由の観点から、 実用主義と早過ぎた妥協がソフトウェア分野全体を遅くしてしまうという、 古典的な例です。 Freeな解をうみだすことへの動機をそいでしまいますから」

Dave Phillipsが"Sound & MIDI Software for GNU/Linux"ページ [16] で見せてくれる分野においては、 特にネットワーク経由で、 どんなノンプログラマでも開発を注視できます。 Free Softwareの3Dモデリングについてこれに張り合えるウェブ・ページができれば、 この分野への実のある貢献となることでしょう。

今日はこのへんで

今号のBrave GNU Worldはこんなところです。 興味深い考えをお届けできたと期待しています。 そしていつものように、 メールでのコメント、 質問、 お考え、 そして興味深いプロジェクトをいつものアドレス [1] へお願いします。 3D分野のFree Softwareはなおのこと。 もしあれば、 ではありますが…。

情報
[1] 意見、 批判や質問は Brave GNU World <column@brave-gnu-world.org> まで
[2] GNUプロジェクトのホーム・ページ http://www.gnu.org/home.ja.html
[3] GeorgのBrave GNU Worldのホーム・ページ http://brave-gnu-world.org
[4] 「We run GNU」イニシアチブ http://www.gnu.org/brave-gnu-world/rungnu/rungnu.ja.html
[5] TINY GNU/Linux distributionホーム・ページ http://tiny.seul.org/de/
[6] GNU TeXmacsホーム・ページ http://www.texmacs.org/
[7] LyXホーム・ページ http://www.lyx.org/
[8] CD-ROM controlホーム・ページ http://sourceforge.net/projects/crcontrol
[9] Saxogramホーム・ページ http://saxogram.sourceforge.net/
[10] オンライン・ラテン辞書 (Online Latin Dictionary) http://king.tidbits.com/matt/LatinDictReadMe.html
[11] インターネット辞書プロジェクト ("Internet Dictionary Project") http://www.june29.com/IDP/
[12] LEO英独辞書 http://dict.leo.org
[13] GNU libiconvホーム・ページ http://clisp.cons.org/~haible/packages-libiconv.html
[14] Mozart/Ozホーム・ページ http://www.mozart-oz.org
[15] Brave GNU World第14号 http://www.gnu.org/brave-gnu-world/issue-14.ja.html
[16] GNU/Linux向けサウンド&MIDIソフトウェア http://sound.condorow.net

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他のご質問は、 (英語で) gnu@gnu.orgまで。

Copyright (C) 2001 Georg C. F. Greve
Japanese translation by IIDA Yosiaki

日本語訳: 飯田義朗

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(著作権と上の許可告知のある限り、 この写しの逐語的な複製をとって、 配布する許可を認めます。)

Last modified: Mon Jul 23 17:36:36 CEST 2001