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Brave GNU World - 第14号
Copyright © 2000 Georg C. F. Greve <greve@gnu.org>
日本語訳: IIDA Yosiaki <iida@ring.gr.jp>
許可声明は以下のとおり

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GeorgのBrave GNU World今号へようこそ。 今回は、 「即時通信」分野のプロジェクトから始めます。

GnomeICU

Jeremy Wise作のGnomeICU [5] は、 GNU General Public Licenseにしたがって公開されている、 GTK+/GNOMEベースのICQクライアントです。 自由に使えるICQのクライアントの中でも特に、 メッセージ通信のみならず、 チャット、 ファイル転送、 履歴のサポートのおかげで、 出色ものとなっています。 GnomeICUは、 Netscapeにつづき「今年の通信プログラム」部門 "Linux World Editors' Choice Award"で、 第2位にみとめられました。

現在の問題は、 SOCKS5のサポートと関連があります。 GnomeICUは今のところ、 ファイアウォールの内部ではうごきません。 しかしJeremyは、 この問題をかなり高く位置づけており、 残ったバグを見つけて修正できしだい、 すぐにも1.0版を公開したいと考えているようです。

この話題に関連し、 本当に自由な即時通信のプロトコルの重要性について、 Frederick Harwathと私は議論をしました (彼はこのGnomeICUの特集を依頼してくれた人でもあります)。 そのあとすぐ、 そのようなプロジェクトが「Jabber」 (早口のおしゃべり) という名前ですでにある、 というニュースをひっさげて、 彼は私のところにもどってきたのです。

Jabber

Jabber [6] は、 ストリーミングXMLベースの完全に自由な通信アーキテクチャーを作成する、 という目標をもつ大規模な分散プロジェクトです。 創始者兼管理者はJeremie Millerで、 Thomas Muldowneyがかなりの支援をしています。 これと同等の巨大プロジェクトでは普通に見られることですが、 多く (すでに世界中からの800人以上) の貢献者がいます。

Jabberのアーキテクチャーは、 クライアント/サーバー・ベースです。 したがって、 すべてのユーザーはJabberサーバーにアカウントをもっており、 お気に入りのJabberクライアントを使って話しかけます。 クライアントは、 ほとんどすべてのプラットホーム上で開発されつつあります。 GTK+、 GNOME、 Qt/KDE、 Tcl/Tk、 UNIXのコマンド行インターフェース、 JavaScript & CGI、 Java、 Windows、 Macintosh、 Mozilla、 Newtonのクライアントに取り組む副プロジェクトがあります。 これらすべてのクライアントは、 サーバーとの通信にXMLを使います。

サーバーは明らかに、 プロジェクトの心臓部です。 一方でサーバーは、 XML経由でクライアントや他のJabberサーバーと通信しますが、 他方ではさらに別のサービスとも接続し、 中には独占的なのも含んだICQ、 AIM、 SMTP、 IRC、 UNIXのtalk、 WAPなどなどといったプロトコルを、 オープンなXMLに変換することができます。 というわけで、 通信相手の使うソフトウェアについてクライアントの悩む必要のないことが、 うれしい点の1つです。 またサーバー側が他のプロトコルを実装しても、 クライアントとサーバーとの通信はその影響をうけないので、 クライアント側の変更は不要です。 このサーバー・モデルにより、 集中アドレス・リスト管理も提供されています。 接続のリストは個人情報といっしょにサーバーの上におかれていて、 つまりこれは、 クライアントやオペレーティング・システムとは無関係に、 同じリストが使えることを意味します。

忘れないうちに許諾のことも。 コードの最大の部分は、 GNU General Public Licenseにしたがって許諾されています。 唯一の例外は若干の共有ライブラリーで、 GNU Lesser General Public Licenseにしたがって公開されています。 Eliot Landrumによれば、 完全な文書は、 後述するGNU Free Documentation Licenseにしたがい、 これもまた自由に使えるようになるでしょう。 したがって、 Jabberは、 明らかにフリー・ソフトウェアといえます。

それでは、 最新の状態について。 すでにサーバーは使える状態で、 もうすぐ1.0版ができるでしょう。 ICQ、 AIM、 IRCへの接続は、 現在開発中です。 Jabberは、 TCPソケット上のXMLストリームでうごくので、 ファイアウォールの内部で使うことができますが、 トランスポート層の暗号化は、 まだありません。 この実装方法のアイデアについては、 すでに論議されました。

いまだ1.0版の公開されていないJabberは、 すでに商業的な関心をあつめています。 2000年3月1日Webb Interactive Services Inc.は、 子会社のJabber Inc. [7] の立上げを発表しました。 Webb社には、 Switchboard Inc.、 SmallOffice.com、 Corel Corporation、 RE/MAX Internationalといった顧客がついているので、 Jabber Inc.は株をあげるのでは、 と期待されています。 またフリー・ソフトウェアに基づいた将来有望な会社の話をきいて、 私は個人的に、 うれしく思っています。 これは、 支援すべき傾向です。

次のプロジェクトの活発な貢献者でもあるPatrick Plattesは、 私に注意をむけさせてくれました。

MUSCLE

Linux環境におけるスマート・カード利用運動 "Movement for the Use of Smart Cards in a Linux Environment" または、 単にM.U.S.C.L.Eプロジェクトでは、 チップカード (chipcard) とそのドライブ用のLinuxカーネル向けドライバと、 それを使ったアプリケーションの作成に取り組んでいます。 これを開始したのはDavid Corcoranで、 (いわずもがなですが) GNU General Public Licenseにしたがって配布されています。

使用方法として確かにありえそうなのは、 暗号トークンのチップカード (Brave GNU Worldの 第1号 のGPKCS-11も参照) やそのシステムを使った認証です。 ドライバの実装に必要な仕様の入手が非常にむつしいことがよくあるため、 現在の主問題は技術的ではなく、 かなり「ビジネス政治的」 (business political) です。

しかし、 これらの困難にもかかわらず、 ここには載せられないぐらいたくさんソフトウェアが、 ダウンロード・セクションにすでにあります。 ですので、 もし見てみたいと思ったら、 ホームページ [8] をご覧になることをおすすめします。

次のプロジェクトは、 複数のマシンはあるが、 クラスタ操作のためにプログラムの変更はしたくない、 または、 できないという人の関心をひきつけるに違いありません。

GNU Queue

Werner G. KrebsのGNU Queue [9] は、 「負荷分散子」で、 したがって、 その仕事は、 ネットワーク上でのジョブ分散です。 「真」のクラスタリングとは異なり、 単一ジョブは、 分割してから複数のマシン上で分散されるのではなく、 ジョブ全体が1台のマシンにあたえられます。 したがって、 複数のジョブが同時に解決される必要があれば、 利点が期待できます。 これは経験によれば、 トレーニングをつんだUNIXのユーザー1人の場合でさえ、 よくあるケースであることを示しています。

他の「負荷分散」システム同様、 GNU Queueにもジョブが投入されています。 ジョブを実際にうごかすマシンは、 ユーザーと無関係です。 GNU Queueがネットワーク上で (「GNU Emacs」のような) 対話型ジョブを分散してうごかすこともできるということは、 強調すべきです。 現在の開発版でも、 プロセス移動をサポートしています。 これは、 ジョブの動作中でさえ、 あまり忙しくないマシンに動かすことができる、 という意味です。 ジョブの分配は、 動的な情況の変化に適応します。

現在のGNU Queueの問題は、 大規模ネットワークについてもうまく拡大できるような、 階層型分配計画の実装です。 もしこれについてのお考えがあれば、 遠慮なくWerner Krebsまで。

今月分の技術面は、 これでおしまいです。

GRASS GIS

"Geographic Resource Analysis Support System" (地理的資源分析支援システム) こと、 GRASS [10] は、 元来 U.S. Army Construction Engineering Research Laboratories (USA-CERL…米国陸軍工事工学研究所) によって書かれた、 土地管理と環境計画のための "Geographical Information System" (GIS…地理情報システム)です。 Bernhard ReiterとMarkus Netelerによると その主なアプリケーションは、 これまでに科学と経済の分野へと強烈にかたむいてきました。 ユーザーには、 NASAと米国のNational Park Service (国立公園サービス) があります。

GRASSの助けをかりて、 ユーザーは、 データを分析したり、 保存したり、 モデル化したり、 表示したりできます。 さらに、 その能力は、 科学工学、 水文(すいもん)学、 地質学、 物理学、 統計におよび、 さらに多く拡張されてきました。 もうおわかりかと思いますが、 これは、 非常に大きなプロジェクトです。

GRASSは、 あるTcl/Tkインターフェースで制御されていますが、 Bernhard Reiterによれば、 まっとうに使うには、 多くのコマンド行オプションや概念を勉強しなければならないので、 満足のいくものではありません。 現在、 2つの開発拠点があります。 一方は、 米国のBaylor Universityに位置し、 もう一方は、 今のところ開発の大部分がおこなわれているドイツのHannover大学です。 現在、 Markus Netelerが調整役です。

Bernhard ReiterのイニシアチブのおかげでGRASSは、 GNU General Public Licenseにしたがって1999年以来配布されていますので、 使用制限をおそれることはありません。 もしこの話題に興味があれば、 この分野のフリー・ソフトウェアを集めて統合しようとしているFreeGIS [11] プロジェクトを照会するとよいかもしれません。

これに関連する読者はおそらくほんの少数なのでしょうが、 私は、 こうしたいくぶん特別な分野でのフリー・ソフトウェアの成功について聞くと、 いつもうれしく思います。 科学と関係があるときは、 特に。

GNU Free Documentation License

GNU General Public Licenseはソフトウェア許諾として設計されたため、 文書のために単純に使うには適しておらず、 そのように使うことには、 いつも問題がありました。 2000年3月現在、 GNU General Public Licenseの精神で書かれた テキストのための許諾であるGNU Free Documentation License Version 1.1があります。

この許諾の目標は、 GNUプロジェクトの感覚において、 すべてのマニュアルや本やその他の文書を「自由」な状態にすることです。 GNU GPLと同様、 これを保証するために、 ある権利が認められます。 文書を複製、 且つ/又は、 修正し、 商業的又は非商業的な目的のため、 原作又は変更された複製を渡すことができます。 ある変更を必須としたり禁止したりすることで、 作成物の功績をみとめられる方法をその著作者や出版者にあたえます。

したがって、 変更された文書を、 陽な原著者からの同意なく、 同じ名前で重版してはいけません。 同じく、 (本の) 扉で原著者のうちの少なくとも5人、 あるいは文書の原著者が5人未満なら、 全員を、 新しい扉にあげなければなりません。

その上、 GNU FDLは、 「履歴」セクション (もしなければ、 変更中の著者が作らなければなりません) のあることを要求します。 このセクションの最初の項目は、 文書の原作の表題と著者でなければなりません。 それから、 くわえられた変更についての若干の情報とともに、 新しい表題と著者をくわえられなければなりません。 この項目は、 必須です。 もちろん、 古い履歴項目を変更してはいけませんし、 セクション全体を消すのも違法です。

もしもっと詳しく知りたければ、 私が本当におすすめするのは、 GNU FDL [12] の原文を読むことです。 GNU FDLにしたがってGNUプロジェクトの文書すべてを公開して、 それを使うことを他の著者に奨励することは、 今や公式目標です。 利用守備範囲は明らかにソフトウェアについての文書です。 しかし、 GNUプロジェクトでは、 書籍がこの許諾にしたがって公開されるのを見るのを、 楽しみにしていることでしょう。

私がこの情況において提起したい問題は、 GNU Free Picture Licenseについての意見やアイデアについてです。 Brave GNU Worldのロゴ・デザイナ兼、 ドイツ語版の校正者のStefan Kamphausenと私は、 これについて議論しました。 問題は、 どうやったらそんな許諾が実装されるだろうか、 とか、 またユーザーの自由や、 適切な著者の信用をたもつために保証しなければならないであろうもの、 とかです。 GNU FDLを変更するといった方法は、 いいアイデアに見えるかもしれません。 しかし、 私が許諾表明と画像との連結方法を確信している、 とは全然いえません。 ある形式では、 コメントを加えることも可能なのでしょうが、 もしそれをコメントのない形式に変換する場合、 どうすればいいと思いますか?

私は今、 まだこれについてのアイデアをかき集めているところなので、 もしお考えや洞察を提供していただける方は、 私 [1] までお知らせくださいますよう。

今月もこれでほぼおしまいです。

おしまいに

まず第一に、 先月のSCWM機能についての「パッチ」があります。 Greg J. Badrosが私におしえてくれたように、 "Cassowary Constraint Solving Toolkit" は、 0.60版現在GNU Lesser General Public Licenseにしたがって公開されています。 私のいわなければならなかった唯一の悪い点は、 これで明らかになくなります。 :-)

皆さんにかくすつもりのないBrave GNU Worldの内部変更が、 もうひとつあります。 時間不足により、 OKUJI Yoshinoriは、 1年以上にわたる日本語訳者としての任からしりぞくことになりました。 とはいえ彼は、 Brave GNU Worldのため、 スカウトとしては引き続き活躍してくれることでしょうし、 彼からはまだまだいろいろ聞けるだろう、とかなり私は確信をしています。 今後はIIDA Yosiakiにより日本語訳がおこなわれることになっており、 今のところ私は家族的に歓迎したいと思っています。

Tシャツ・プロジェクトに何が起こったか知りたい方へ。 いやいや、 私は、 それを忘れたわけではなかったし、 いったん準備ができれば、 これについてのメールを送ったすべての人々には、 連絡がいくはずです。 4月の締切のため、 今のところ私の時間は非常にかぎられており、 私は、 他でもないデザインをまださがしています。 画才のある読者は、 どうか私までご連絡ください。

とはいえ、 これで本当におしまいです。 もしご質問、 お考え、 ご意見をおもちの方、 そして、 ごきげんなプロジェクトをご存じの方は、 ためらうことなくご連絡 [1] くださいますよう。

情報
[1] 意見、批判や質問は Brave GNU World <column@gnu.org> まで
[2] GNUプロジェクトのホームページ http://www.gnu.org/home.ja.html
[3] GeorgのBrave GNU Worldのホームページ http://www.gnu.org/brave-gnu-world/brave-gnu-world.ja.html
[4] 「We run GNU」イニシアチブ http://www.gnu.org/brave-gnu-world/rungnu/rungnu.ja.html
[5] GnomeICUホームページ http://gnomeicu.gdev.net/
[6] Jabberホームページ http://www.jabber.org/
[7] Jabber Inc.ホームページ http://www.jabber.com/
[8] M.U.S.C.L.E.ホームページ http://www.linuxnet.com/
[9] GNU Queueホームページ http://www.gnu.org/software/queue/queue.html
[10] GRASS GISホームページ http://www.geog.uni-hannover.de/grass/
[11] FreeGISホームページ http://freegis.org/
[12] GNU Free Documentation License http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html

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Copyright (C) 2000 Georg C. F. Greve
Japanese translation by IIDA Yosiaki

日本語訳: 飯田義朗

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(著作権と上の許可告知のある限り、 この写しの逐語的な複製をとって、 配布する許可を認めます。)

Last modified: Thu Mar 30 13:18:20 CEST 2000